【菓匠 福富 /澤 卓哉 】旬を感じる「和菓子歳時記」に 今どきの嗜好と福山らしさを

INTERVIEWEE
菓匠 福富(かしょう ふくとみ)
取締役専務 澤 卓哉  さん(47)

お客様の喜びを自分の喜びに

 「〝材料をケチるな。お客様の喜ぶ姿を見て喜べ〟。先先代の祖父の言葉が、今もずっと心にあります」。市内4店舗を構える菓匠 福富の専務・澤さんは、和菓子の老舗・若狭屋春長の創始者・山本宇三郎さんの孫。中学生の頃から繁忙期は何かと手伝い、「おじいちゃん子でしたね」と懐かしそうに遠くを見た。ふわふわの生地が特徴の「わっふる」をはじめ、若狭屋時代からの味も受け継ぐ。
 澤さんは最初、広島市内で異業種の営業職に就いたが、宇三郎さんが亡くなったのをきっかけに若狭屋へ戻り、2年勤めた2000年、「叔父と父が福富として独立しました」。同時に澤さんも福富で本格的な和菓子の職人修行を始めた。「それでも4年くらい、一番難しい上生菓子は触らせてももらえなかったですね。餡を練る、前屈みの立ち仕事は当時もしていました」。手作りの繊細な世界の難しさと、今も変わらない体力勝負を語る。

四季の彩りと地域性を大事に

 「桜餅、柏餅、おはぎ…量販店に行けばいつでも食べられるようになりましたが、私ども専門店としては、和菓子が暮らしに季節限定の彩りを添えるという役割を大事にしたいと思っています」。上生菓子なら二十四節気にあわせて1ヶ月に2回ほど、新たな意匠を凝らすと言い、今どきの嗜好の変化を取り入れた苺大福やはっさく大福も提案する。
 また、創業以来人気のもなか「備後千畳」、八朔ジャムと白餡をカステラ生地で包んだ「潮待ちの月」など福山らしいお菓子が多く、福山ばら祭で本店前をパレードが通る土地柄もあって、ばらと名の付くお菓子も様々。花の形の「ばら最中」や紅白の「福山薔薇ラムネ」は、澤さんが「地元らしいことをやってみようと思った」と企画した福山ブランド認定品だ。小学校のPTCや各種イベントのワークショップでは、和菓子作りの先生として積極的に活動もしており「子どもたちに教えるのは、私にとっても楽しい瞬間」と目を細める。

新しさの中にも揺るがない思い

 今年は年男で、創業20周年の節目でもある。今月23日に福寿会館で開かれる創作菓子展では、広島県東部菓子商工業協同組合青年部の会長として、和洋を超えた仲間とこの日限定の菓子を提案する。「実はケーキが大好きなんです」という柔軟な一面を覗かせながら「これからも季節の変化を感じていただける、そして福山の歴史や文化を伝えながら、新しい物を取り入れて話題になる。そんなお菓子を作り続けたい」と展望する。
 また、「採算度外視というわけにはいきませんが、美味しさへの妥協はしたくないですね。心を尽くします」と職人の血が流れる、揺るがない一面も見せた。

INTERVIEWEE DATA
菓匠 福富(かしょう ふくとみ)
広島県福山市松浜町3-8-36
TEL:084-991-3380

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