僕はお風呂が好きだ。
息子と入る自宅のお風呂もいいけど
週1で、息子と行く「美福」のお風呂が一番好きなのだ。
そう、自転車で5分のところにある、曙町のお湯処美福は、
老舗のお風呂屋さん。
車で行けば、いろんなスーパー銭湯もあるけど、
どうしても、自転車で行くこの美福の距離感がいいのだ。
夏は息子を自転車の前に乗せて、汗だくで到着。
入り口に入ってかんじる冷房と、これから入るお湯に心が躍る。
息子を後ろに乗せて、背中を丸めて「耳、つめたいな~」と言いながら走る冬は
これもまた最高にベストシーズン。
湯冷めたことなんかない。
あったまった身体と、真っ赤なほっぺの
息子と自宅まで帰る道も好きなのだ。
一緒に自販機で入浴券を買って
一緒にお風呂であったまって、
一緒にお食事処で、大好きなポテトをたべたな。
夕食前に食べさせて、帰ってママに叱られたこともあった。
かごに乗っていた時は、「今日はママと入る!!」っていって駄々をこねていた息子も
大きくなってきた。
よく会う近所の人にも、ちゃんと挨拶もできるようになった。
お食事処のおばちゃんにも人気者だった息子。
僕が、月に一回のご褒美マッサージを受けているときも、
ひとりで、ちゃんと、本をみながら待ってくれるようになった。
牛乳も一人で飲めるようになった。
そんな息子もいつの間にか、一人で自転車に乗れるようになった。
いつだったかな、前や後ろの椅子に乗りたがっても窮屈になってきたのは。
補助なしの自転車の練習をしながらも、美福に通った。
ついに、一人で乗れるようになったときは、一緒にうどんと大好きなポテトでお祝いした。
小さい頃は、絶対嫌がっていた「電気風呂」も、小学校でサッカーをはじめたころから
「これ、いいんだよな」って、大人みたいにいうようになった。
サウナ勝負ができるようになったのは、中学生のころからだったかな。
好きな子ができて、でもニキビが気になって
「サウナって肌にいいらしいよ」って、わかりきっていることを教えてくれたね。
そのくらいを境に、僕は昔みたいに一人で来るようになった。
知り合いのおじちゃんはおじいちゃんになって、僕も随分いい年になってきた。
それでも
「パパ、みて!」ってあたまを泡だらけにして遊んでいるこどもの
声に、いまでも振り向いてしまう。
高校生になった息子は、もう一緒に美福にも自宅のお風呂にも
入らない。
部活で汗だくになっても、シャワーだけでいいんだって。
電気風呂、もう忘れたのかな。
サウナ、もうニキビは気にしないのかな。
そんなときでも、美福は僕の安らぎで、ずっとそこにいてくれる存在だった。
なじみの顔がいたり、気の利くスタッフにはげまされたり
夏は、ビールを
冬は、大好きなチキンカツ御膳を一人で食べてかえった。
11月の後半、その誘いは突然やってきた。
「なあ、あのお風呂やさん、明日いこっか」
息子からの数年ぶりの誘い。
すぐに返事が返せない。
「うん、いくか」
その日は、もう朝からうれしくて、仕事もうまくいった。
夜七時に、ふたりで家を出た。
ママチャリの僕と
かっこいい自転車の息子。
前を走るのも息子だ。
久しぶりにお風呂で見る息子はたくましく、見違えるほど大人になっていた。
隠すように、顔をパシャパシャあらう。
息子と風呂に来て感動するおやじって、ないない(笑)
会話もなく、いろんなお風呂を楽しむ息子。
それでも嬉しい。
めっちゃくちゃ、うれしい!!!
風呂あがりに、息子が
「めし、食ってかない?ここで」
??!!!
「お、おう」
どした、ミラクルだ。
気が付いたら息子が自販機でお金を入れて券を買っている。
ビールと大好きなチキンカツ御膳。
息子はラーメン、ライス、唐揚げだ。
「じゃあ、勤労感謝ってことで、乾杯」
声変わりした息子が放つ言葉は、魔法かとおもった。
「バイト代、初めてもらったからさ」
僕はまだ
なにもいえない。
僕のチキンカツを、とられても
ぼくはまだ何もいえない。
「おう」
絞り出した声は、鼻声だった。
僕はお風呂が大好きだ。
息子とはまたしばらくは入れないかもしれないけど
週1で、ひとりで行く「美福」のお風呂が一番好きなのだ。