INTERVIEWEE
学校法人杉原学園 松永幼稚園
園長 柳澤 尚志さん(42)
戦後まもなく誕生した私立幼稚園
福山市初の私立幼稚園として昭和25年(1950年)に開園した松永幼稚園は、令和2年に創立70周年を祝った。広島県の自然保育認証を受けており、自然にふれる遊びを大切にし、ハダシでの外遊びや夏はゾウリで過ごすなど特徴的な活動で知られる。今年4月に4代目園長に就任した柳澤さんは、週に一度「あそぼうDAY!」を設け、外遊びの時間をさらに深めている。
柳澤さんの祖父・杉原史郎さんが、戦後間もない頃、「松永に幼児教育を」と松永鉄工所跡地に創立した園だ。きっかけは、近くを走る列車から米兵が投げるお菓子に群がる子どもたちを目にしたこと。「このままじゃいけん」と立ち上がったという。第1回入園式では予想を遥かに上回る希望者がいて、自宅の応接室を教室に改装したほどだった。「2代目は祖母が、3代目は嫁いで柳澤姓となった母が継ぎました」と園の軌跡を語る。
トンボの研究家として
自身は東京生まれ東京育ち。法学部を出て一般企業に就職し、祖母が亡くなった26歳のとき松永へIターンし、副園長として支えてきた。自然とは縁遠い都会で幼少期を過ごしたが、「父が“蝶の人”でした。休日はほぼ昆虫採集に出かけました。私は高校生でトンボの研究に目覚め、〈ミナミヤンマ〉の世界を解明しようと追い求めています」。2015年と2018年にはタイとベトナムでそれぞれ新種のトンボを発見し、ラテン語で「yanagisawai」を含む学名が付けられた。国内外で数十年ぶりの再発見をしたことも一度ではない。今でも学会に論文を発表する“トンボの人”だ。
園内にはカブトムシの飼育コーナーがあり、毎年のようにチョウの羽化も園児と観察。「自然の循環や命の尊さ、はかなさも伝えています」という。
主体的な学びを大切に
子どもたちの主体性も重んじる。自分で選択できる「コーナー遊び」を採用するほか、化学実験がうまくいかなかった園児が、もう1回やるために失敗理由と改善点をプレゼンをした小学生も顔負けの逸話もある。「遊びに重点をおいた教育で、園児の主体性も育っていると感じます」と快活に笑う。
創立時に植えられた藤の木が夏の砂場に木陰を作り、小鳥小屋では繁殖を観察でき、池には錦鯉。「野山で遊べるような自然の中に園を建てたい思いもありますが、地域に愛されている今の園に力を注ぎ、最善の環境を整えたいと思います」。また、幼い子どもたちを、種が芽吹いたばかりに例え、「将来きれいな花を咲かせられるように、私たちは土台となる根に水と栄養をたっぷりと与えています。幼児教育は不変ではなくアップデートもしていかなくては」と語っている。
INTERVIEWEE DATA
学校法人杉原学園 松永幼稚園
福山市松永町1丁目31番地
TEL:084-933-3359