【WEB in 1面記事】福山伝統産業の今、そして未来へ びんご畳表

660年続いてきたに本妻高品質の「びんご畳表」。
特有の香り、生活の中にある自然。 超クールビズの意識も高まり、その材質と涼感も期待される今、伝統を受け継ぐだけでなく発展させる取り組みや思いにも着目し、「未来を拓く伝統文化の今」を紹介する。

置き畳

寝ござ

いぐさ草履

円座(渦)

浪人がさ

いぐさボード

660年超の歴史と栽培−最適地で最高品質−

1347年、南北朝時代の公家・中原師守が記した日記「師守記」に備後筵の記載がある。備後表は約450年前に、沼隈町に自生していたいぐさを水田で栽培し製織したのが、始まりとされる。
水野、松平、阿部の福山藩主も特産品として保護奨励し、品質管理を徹底したので、品質日本一と呼ばれた。表皮は厚く置く卓が有り、青味を帯びた銀白色。その美しさ強さから国宝、重文級の建築物にも多用され、平成20年、地域団体商標(地域ブランド)に登録されている。
原料のいぐさは、真冬に植え付け、5月に新芽の生長を促す先刈り、6月に転倒防止のくい打ちといった作業をし、真夏に刈り入れをする。刈り取った直後に(枯れてしまうので30分以内に)色留めのための泥染めして乾燥させる。そして、長さや反りなど1本ずつチェックして熟練の技術で織りあげる。
広島県い業協会(今津町)の寺本安雄事務局長は「備後は、いぐさ生産の最適地。この近辺はいぐさがたくさん生産され、織っていた」。いぐさの香りと緑が風になびく原風景が頭をよぎる。残念ながら現在備後地方のいぐさ生産者は一桁台にまで減っているという。

びんご生まれ、びんご育ち−藤江町・河野夫妻−(取材日2011年6月7日)

現在、びんご地方のいぐさ生産農家は、片手で数えられるほどに激減している。
そのなかで、藤江町の河野雄吉さん(76歳)と須賀子さん(72歳)夫妻は、半世紀にわたって生産から織までを一貫しておこなってきた。

数々の品評会で最優秀賞を受賞し、その数も「数えたことがない」ほど。丹精込めたいぐさの束を手にとり、その日、その時使う分だけを丁寧に選りわけて湿らせ、決して横着しなかったのが受賞の秘訣という。「畳の目は正直。手と心をかけただけ表情が違う。子育てのような仕事」と愛おしむ。

そう語る河野さんですら人手不足に悩んできたが、尾道市の生産者と2軒共同で30アールをつくることにして、継続の道が可能になった。「こどもを5人育てた。抱えたいぐさの束をひきずるほどの小さな頃から本当によく手伝ってくれ、収穫時は友達も集めてくるなど力になってくれた。しんどさを知りすぎていて後継ぎにはならなかったが、今の職場では辛抱強いとほめられることが多いというから、手伝わせたことが子どもの成長の役には立ったんですよね」。そして、「本物の畳の寿命はどうやら自分たちより長く、見極めがつかない。とにかく主役のいぐさを活かしきり備後の一番いいものを作ることだけ」と静かに語る。
ツバメが毎シーズン10組も訪れる仕事場。さかんに餌を運び、手塩にかけた品を汚されることも年に数回はあるというが、「運がええ表じゃろ。品評会には出せないけど」と笑うことができる、そんなおふたりの優しい人柄が、警戒心なく飛び交うツバメと無数の巣からもうかがえる。
さらには、最近の家の密閉性が高いことにふれ、「畳は生きているという認識がある家では、風通しを良くするなどしていて、畳の機嫌がいい。できれば、そういう状態で使ってほしい」と穏やかに諭している。
河野さんのように備後で生産し、織り、そして加工された畳には「びんごうまれ びんごそだち」の特別な証票がつけられる。

こがね色の最高級品 龍鬢表 −藤江町・大村夫妻−(取材日2011年6月7日・14日)

冬場は40日、夏場は10日から2週間。いぐさを夜露にあて天日で干しては取り込む作業を続けると、いぐさの青味が艶やかなこがね色(飴色)になる。これを織った特別な畳表が、床の間や人形の台座に使われる高級品「龍鬢表」になる。
藤江町の大村琢也さん(72歳)・澄子さん(69歳)夫妻は、45年前からいぐさに関わり、織機30台でござを織った時代もあるが、やがて龍鬢1本に切り替えた。現在7反もの干場を使っており、龍鬢における全国シェアの6割を占める。
梅雨の合間をぬって6月14日、朝6時半からいぐさを干し始めた大村夫妻。
200畳分にあたる約120キログラムのいぐさを4反近くの敷地に広げ、3時間かかって並べた。気温が15度以上あるこの時期、およそ10日間で青みがかった銀白色から黄金色に変わっていく。この日は既に6割がたその工程を終えた段階まで来ていて、飴色の光沢を見せ始めていた。「いぐさの波」が広がり、風に乗って清らかな香りが渡ってくる。松永湾を臨む高台の一角。いつまでも残したい原風景とはこういうものかもしれない。

ふたりは腰をかがめ、いぐさの束を抱えて端から均等に並べていく。ぱらりとまくようなスピードは、熟練の技ならでは。干す前は、写真のような青い色。
「はじめた当初は、とても続けられんと思うくらいしんどかった。今は、もう慣れました」と澄子さん。春先のような突風こそ少ないが、この時期の雨は大敵ですぐカビになるため、天気には要注意。琢也さんも「空から目が離せない。あの山に雲がかかったらあっという間に降るから」と西を指さす。そして、息をあわせる作業だけに「けんかしたら、いぐさに火がつく。仲良うせんと」と冗談まじりじにいたわりあっている。

龍鬢は、大目と小目の2種類があり、近年は青いままのものも存在する。ここでは、20m約13kgを織りあげるまでが仕事だ。そこからは、基本的に熟練加工者の手にゆだねる。
この時期嬉しいのは、注文すれば抜群の寝心地の寝ござに仕立てることができること。サイズもいろいろ注文でき、その素材と香りと吸湿性は一度体験したら手放せなくなるほどという。
「40年ほど前は、龍鬢もござも作るそばから買い手がついた。しかし、時代が変わっても、畳表は備後の気候風土に適し、何百年と続いた文化。生きているいぐさにとって、ここが最高の適地だから、備後のいぐさには変えられん」。誇りをもって干し、織っている。

ロットワイラーかな? グレートデン? リュウ君は干場に近づくイノシシも追い払う。

干場にやってくるコチドリ(小千鳥)の卵。澄子さんは優しく避けていぐさを広げている。

編み笠継承と全国発信 (取材日2011年6月2日)

畳表に使用するには、160㎝ほどのいぐさが理想。短い丈のものが長いものを支え、長短入り混じる形で1株となるいぐさの性質上、丈の短いものを活用した特産品ができた歴史には、必然性がある。
時代的などで使う浪人笠の日本唯一の編み手(編み笠工芸士)は、尾道市高須町在住の岡田菊恵さん(73歳)。広島県藺製品商業協同組合では先月、岡田さんの技術を習い伝えるため研修生二人を雇用した。

ひとりは、和裁経験のある小林睦子さん(神辺町新徳田51歳)。「和裁と違って決まった寸法でははなく、このくらい、という手加減というか頃合いが難しい。天気にも左右されるが、1か月経験してみて弾みがついた。一生続けていく」。山神なつ子さん(尾道市原田町34歳)は、美術講師経験があり、ビデオに記録し、ウェブなどを通じて発信する役割ももつ。「自分も一緒に編みながら普及と技術記録につとめ、伝えたい」と意気込んでいる。
同組合の村上学常務も「後世に伝える技術を習得し、PR事業の中で活性化につなげられたら」と期待を寄せている。

ビジネスベースで未来に光を (取材日2011年6月9日)

法人としていぐさ業界に参入−アグリインダストリー−

「我が家がやめても、どこかで誰かが作っているだろうと、心のどこかで信じこんでいた。その認識が誤っていたことを偶然知ったのが2008年。5千軒が5軒に激減し、自分がやらなければと思った」。
生産、織、加工、販売まで一貫して行おうと取り組み始めた農業法人アグリインダストリーの岡田吉弘代表(平和建設社長)は、「備後いぐさリノベーションプロジェクト」と題した業界参入のきっかけをこう振り返る。
昨年亡くなった国宝級の名人・広川宏志さん(熊野町)のもとを何度も訪れ「残りの人生をかけて備後畳表の誇りを守るから」と教えを請い、松永での試験栽培を経て生産組合にも加入。09年には国交省の補助申請が通り、その冬に初めて1・7反を借りて苗を植えた

その場所は、松永周辺ではなく、あえて神辺町上御領の美ノ鶴周辺に求めた。刈り取り後約30分以内という、迅速さが要求される泥染め、乾燥設備を、それまで同社が穀物蔵としてきた「美ノ鶴の蔵」なら整えることができたから。
しかし、米作りに使われる除草剤は、いぐさも枯らす。米に囲まれていぐさを育てるには、米より上流で作るか、地下水を利用するしかない。だがそこは、農業土木に端を発する平和建設。ボーリング工事は、もっとも得意とするひとつで、美ノ鶴の酒仕込み水が湧き出した。また、周辺に遊休農地があり、借り受けることもできた。
収穫したいぐさは、蔵内で担当者が畳表に織り上げる。織機のひとつ「細井1号」は、上山南の細井智昭さんから寄付され、広川さんが調整してくれたもの。 捨てるところをなくしたいと、木遊工房でいぐさボードに加工し販売もしている(形、サイズともに注文に応じて自在)。

「美ノ鶴の蔵」にある細井1号。カーボンオフセットにも取り組んでいる。

2年目の今年は、まず量を確保したいと、遊休地をさらに借り受けて7反にまで拡大。広川さんの遺した苗も植えた。「苗半作」。この言葉を広川さんは遺してくれた。苗ができていれば、半分できたようなものだと言う意味だが、「それだけに苗作りは奥が深く、難しい」。まず生産量を拡大し、あわせて質を高めて行く方針。
畳表を核に、いぐさボードや子ども向けグッズ開発、ブランディング化、無農薬栽培にして薬草として活用するなどのモデルを描いており、「いぐさは、磨かれていない部分があるダイヤの原石のようなもの。目的は、文化財保護ではない。群れで守り育てるその生態のように、多面的なビジネスで発展させることだ。世界から買い付けに来るほどこの産業を進めたい」。全てマニュアル化し、仲間が現れたら公開できるよう準備もととのえた。また、子ども向けグッズ開発をしてくれる人とのコラボレーションを願っており「もっと仲間が欲しい」と熱く語っている。

問合せ先
広島県藺製品商業協同組合(福山市今津町)
TEL:084-933-2004
アグリインダストリー(福山市川口町)
TEL:084-953-2817

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