INTERVIEWEE No.696
くぬぎ建築工房(くぬぎけんちくこうぼう)
代表 川村 輝夫 さん(48)
創業7年目の建築屋
この業界に入って27年。店舗や一般住宅の軽作業、現場監督など一通りのことを経験して、2014年2月に開業しました。現在は主に中国地方の建設現場に関わっています。従業員は一人だけ、家具製造メーカーにいた幼馴染みを雇用しており、その他は当社と契約した大工、左官、土木関係の親方が12人います。住宅の基礎工事から外部工事、内部造作、外構までの全工程に対応しており、古民家再生、お堂の改修なども請け負っています。現場のIT化もどんどん進み、作業の効率化が重要視されていますが、弊社では「スピードが丁寧さに勝ってはいけない」という考えのもと、納期厳守を徹底しています。 独立のきっかけは、会社を興した元同僚から「覚悟さえ決めれば意外と成るように成るものだ」と背中を押されたことでした。心配する妻を説得し、最初は自宅を事務所にして開業しました。ただ、私は営業が大の苦手で…。会社勤めであれば最低限の給料は保証されるものですが、自分でするとなると契約がゼロなら給料もゼロです。どんなに苦しくても家族にだけは悟られまいと、当時はとにかく必死で動いていました。 ありがたいことに、同業種に同級生が多く、彼らから仕事を回してもらいながら自分でも新規開拓し、ようやく安定的に契約が入り始めた2016年、御幸町に倉庫兼事務所を構えることができました。2階の事務所はカフェバーをイメージし、電車の窓のような角丸の窓枠や、天井吊りのアイアン棚、見せる収納を意識した壁面棚などを相棒の幼馴染みと一緒に手作りしました。当社が得意なデザインがひと目でわかる展示場とも言えるかもしれません。
絵を描きたくて
子どもの頃から絵を描くのが好きで、よく鉛筆で景色やアニメのキャラクターを描いていました。中学生の頃、母が営む飲食店の内観の建築用スケッチを見て感動し、「この仕事は絵が描ける」と思って岡山理大専門学校建築学部へ進学しました。社会人になって「図面を描くには現場を知らなくては」と諭され、自分で使いながら工具や建材、作業工程などの基礎知識を吸収。おかげで、より詳細な図面を描けるようになり、自分のスケッチが契約につながることも増えました。今も、私が絵が得意なことを知る元請企業から図面を頼まれます。完成図を見せたときに「うわ、いいね!」と反応されると、寝ずに仕上げた甲斐があったと嬉しく思います。 独立後、初めて自分で契約を頂いた住宅のフルリノベーションでも、スケッチに施主さんの理想を細かく落とし込みました。それをきっかけに距離が縮まり、建材の選定や加工も施主さんを交えて進めました。この時、自分が今後どのように施主さんと接していくか、その基礎のような感覚を得たような気がします。
息子世代に託せる業界に
この3年間で、1千万円を切るローコスト住宅が受注の半数を占めるほど急増しました。最初は薄利多売を恐れ避けていましたが、関わってみると、効率良く造れるように考えてあることがわかりました。建材も全く遜色ありません。ただ収益を上げるには、やはり数はこなさなくては。いかに手際よく美しく安全に仕上げるかは、現場を管理する我々の腕の見せ所です。新しいやりがいが増えました。 今、長男が母校で建築を学んでおり、鉛筆の走らせ方など、聞いてくることが具体的になってきました。昔の自分と重なり、くすぐったいです。彼らの世代はテクノロジーを駆使した家造りを考えるでしょう。どんな建て方をしても、住む人の想いを大切に、丁寧な仕事をする人に成長してほしいです。彼らのためにも、我々世代がまだまだ踏ん張って堅牢な基盤を築かなくては。樹蜜で昆虫たちを集めるクヌギのように、人がどんどん集まる魅力的な会社に、業界にしていきたいです。
■ SHOP DATA
くぬぎ建築工房(くぬぎけんちくこうぼう)
広島県福山市御幸町上岩成392-1
TEL:084-943-8962