No.850【大判焼き こまや/田川 能規】秘伝の味を守り、作り続ける ー 父の背を追いながら ー

INTERVIEW No.850
大判焼き こまや
代表 田川 能規 さん(55)

特徴的な具と生地

 こまやは、1990年に父が始めた大判焼きの店です。私が加わって2年半になります。
 具は約15種。季節によって入れ替えながら、朝10時の営業にあわせて焼き始めます。甘くないおかず系があるのが珍しいかもしれませんね。ゆで卵がころんと入った「ハムエッグ」が一番人気です。「チーズソーセージ」、「カレー」なども〝お昼ご飯にする〟という声をよく聞きます。おやつ系では「あずき」が人気です。添加物不使用、甘さを控えて炊き上げた自家製になります。生地が無くなれば終了ですが、予約注文も受けています。
 生地は父が試行錯誤してこだわって作り上げたレシピを受け継いでいます。卵や小麦粉の量、甘さのバランス、香り…門外不出、秘伝のレシピです。

父の転機、私の転機

 父がこの店を始めたきっかけは、私が大学3年のときまで遡ります。当時、お菓子の機械メーカー営業職で、月の半分は全国を飛び回っていた父でしたが体調を崩し、経験を活かしながら自分のペースで働けるようにと考え、開いたのがこの店です。店名は、熊野町の法縁寺で付けてもらった縁起の良い名前と聞いています。また、今も続く生地の柄は、女性が風に髪をなびかせているようなデザイン。父が出張中に色々なスケッチをしていた中から選び、焼き機を発注したそうです。
 最初20年は母と2人で、たこ焼きも焼いていましたが、原価高騰の煽りを受け、大判焼き一筋にし、現在に至ります。
 父の独立は私の転機でもありました。ちょうど福山市役所で職員募集があり、家計状況も考えて大学を中退、入庁しました。土木技師として、川や道路など公共工事の設計、管理、監督をしていました。

変えない、続ける、伝える

 3年ほど前に父から相談がありました。母の介護で思うように働けなくなるので、店をたたもうかと思うと。私も21歳から53歳まで福山市で色々と経験させてもらいましたが、違う仕事をやってみるのもいいかなと思っていたときでしたから「一緒にやらせてほしい。修行させてください」と伝えました。それから、父のことは〝大将〟と呼んでいます。
 その日の気温も考えながらプロパンガスで焼き上げる時間を調整しますが、均一で表裏の差がない、この焼き色がなかなか出なくて今も苦労しています。店に立つと、常連さんから「息子さん? これからやるん?」と声をかけていただくことも度々あり、「やってみようと思って頑張っています」と、自分自身に返事をするようなやりとりも励みに、今も店に立つ大将の後ろ姿を追っています。
 イベントへ出店もなく、ここだけで買える大判焼きを楽しみにしてくださるお客様を大切に、この味をしっかり引き継ぎ変えない努力をしていきたい。お客様から「美味しい」のお声をいただく度に、絶対変えずに守っていこう、と思うのです。

■ PROFILE
1968年生まれ。福山市出身。長年福山市役所職員として勤務。53歳で父親が営む「大判焼き こまや」に合流、代表就任。父子で交代しながら店に立ち、秘伝のレシピで焼き上げる

■ SHOP DATA
大判焼き こまや
広島県福山市明治町14-28
TEL:084-927-0461

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