グルメ

シリーズ⑤思い出の蓮華で泣いた僕

あははっ

そんなに、麻婆豆腐辛かった?

泣くほど?

でも、ほんと美味しいね!

この娘には、僕の涙の訳などわからない。
いいんだ。その明るさと香辛料に僕は救われるんだから

蓮華にきたのは、何年ぶりだろう。
最後にきたのは、仲間との忘年会かな

「ねーねー、辛系がいいな。
激辛坦々とか、あるかな?」

ぼくの、回想をさえぎるように、
この娘が割り込んでくる

うん、おいしいね。僕も辛党だからいいよ。マスターに、きいてみよっか。

お店にはいったときから、マスターは、少しぎこちなかった。

予約はしないで、いきなり来たから?
この娘が、僕の手をにぎっていたから?

ひさしぶりですね!

の、懐かしがってくれてる声のトーンのあと、
後ろにいる この娘を見て、少し目が泳いだ気もする。

そうだよな。あれから何年もたつし

『マスター、かなり辛い系の汁なし坦々お願いします』

初めて蓮華にきた この娘は、うれしそうだ

彼女と別れたあと、転勤先の事業所で見つけたあたらしい この娘

よく食べるしよく笑う。

比較はしないけど、前の彼女と似ているのは、髪が長いとこ

似てないのは、わがままじゃないとこ

僕の転勤先に、一緒にきてくれなかった彼女

僕の転勤先でみつけた、この娘

悔やんでもしかたないのに、だめだ。

蓮華は、特別な店だったから
思い出が溢れる。

遠くで声がした。

“マスター、最後に海老が食べたい。辛くないように、蒸して美味しいフルーツのソースで食べたい!”

えっ 。

振り返ったカウンターには、
ショートカットの女性がひとり。後姿は、カッコいい女性。

声と好みが似てた。
一瞬すべての機能がとまった。
いるはずもない、わすれられない残像を思い起こす。

「ねー、次はなんにする?お肉にしようか。おすすめなにかな?
マスターひとりだから、注文しにいかないと、いけないかなあ」

この娘は、かわいい

『マスター、すみません。お肉ありますか?』

【ジビエ、あるけど食べますか?】

なんだか、挑戦的な目。

この娘は、すかさず、

「たべます!大好きです」

前の彼女は、ジビエ苦手だったな、

カウンターからまた声がきこえた。

“マスター、やっぱり最後に、やさしい麺
も少しだけして。飲み干せるスープで”

今日の僕はおかしい。
久しぶりにきた蓮華で
彼女を思い出しすぎて、カウンターの女性のオーダーと声がリンクする

目の前のかわいいこの娘は、
なんの矛盾もない世界で
蓮華ワールドをたのしんでいる。

“マスター、ごちそうさま。
12月友達と六人くらいで忘年会にくる。

野菜の塩系の いためものと お肉はおすすめを2つ。
魚はあっさりで1皿、あと、おつまみになる前菜を 2つ頂戴。予算は、料理だけで6000円くらいで ”

【あいよ。いつものかんじでね】

マスターの声が厨房に響く。

それでも、マヌケな、僕はまだ
回想のなかだった。

烏龍茶しか飲まないこの娘は、
まだお腹をすかしてる

「おいしいね!またきたい」

僕はうなずきながらも、はじめて彼女ときた日のメニューを、思い出そうとしていた

カラン

あ、女性が帰ったんだ。
辛いのが苦手そうな
オーダーをする人だったな。

カウンターをみると、お皿もいっぱいだ。
横には、シャンパン。

いいね。

中華と泡。

ラベルは、、、

マスター、このシャンパンって!!

【さきほど、かえられたお客さん、今日が、お誕生日でしたので、思い出の泡を楽しまれていましたよ】

11月1日。
そうだ、そうだ……あのとき、奮発して飲んだモエのピンク。

「ねー、麻婆豆腐たべよっ」

この娘の、声を受けて、マスターが、黙々と、作り始めた。

熱々の麻婆豆腐は、湯気まで目に染みる。

「あははっ。

泣くほど辛い?
めっちゃおいしいね」

タクサンノ
シュルイヲ
スコシズツ
タベル。
マエト
スベテ 
チガウ
メニューデ。

彼女は、嘘つきだ。
前と全てちがうメニューなんかじゃない。
僕との思い出の味だ。

グラスに残ってる泡は、
もう消えかけていた。

中国料理 蓮華

中国料理 蓮華チュウカリョウリ レンカ

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