INTERVIEWEE No.640
株式会社三洋堂(かぶしきがいしゃさんようどう)
代表取締役 三好 眞一朗 さん(58)
80年の歴史をもつ老舗
三洋堂は、今年6月に創業80周年を迎える写真専門店です。昭和14年、私の祖父・實三郎が旧朝鮮の京城府(現ソウル)で、フィルムや感光材料などの卸業として立ち上げ、多くの企業との取り引きを始めました。社名は、3つの海を渡るような会社に、と願って名付けたそうです。
終戦後は日本に引き揚げて法人化し、最初に店を構えたのは笠岡町の本通商店街です。高度成長期の到来で商店街は年々活気づいていき、私が中学生だった頃は元旦朝市が始まって、祖父たちも深夜0時からフィルムなどを初売りしていました。当時の商店街は、一歩も進めないほど大勢の人で溢れ返っていた記憶があります。
現在の野上町に移ったのは昭和41年、父・一正の代になってからです。最盛期の80年代には、倉敷や三原も含め10店舗ほど運営していました。デジタル化が進むにつれて感光材料などの需要が減り、主軸を写真プリント業にシフト。さらに、まだ写真館が少なかった時代だったので、スタジオを作り、お客様の人生の節目を祝う撮影も請け負うようになりました。
私が入社したのがちょうどその頃です。大学卒業後、東京のカメラ屋で4年間修行し、寡黙な父のもとで経営ノウハウを学びつつ、撮影技術を高め、出張撮影にも出るようになりました。取締役として永く父と店を切り盛りし、正式に後を継いだのは昨年11月です。
うちは創業当時から、時流を読んで最新機材を導入してきました。今使っている銀塩プリンタもそうです。全ての色を粒子ごとに発色させるので仕上がりの美しさは格別ですが、導入している専門店は少ないため、同業者からのプリント依頼も受けています。
デジタルとフィルムの違い
デジタル化が進んでも、フィルムカメラの愛好家がいる理由は、写真にしたときの質感の違いにあります。デジタルは四角いドットの集合体なので、拡大するとどうしても角張ってきます。一方、フィルムは丸い粒子の集合体なので、やわらかい印象を与えます。また、フィルム写真は明暗に強く、影に写り込んだものも暗いままに立体的に表現できますが、デジタルは、端的に言うなら、満遍なく明るくしてしまいます。どちらが良い、悪いではなく、記念写真ならデジタル、ポートレートならフィルムと、目的に応じてカメラを使い分けるのが一番いいと思います。
うちではどちらのカメラも、修理やオーバーホールの対応をしています。現在残っているクラシックカメラは、99%が修理が利かなくなってはいますが、壊れた場所によっては直せることもあるので、一度、持ち込んでください。
次世代に“写真文化”を
いまや思い出もデータ化して保存する時代となり、写真に対する価値も大きく変わってしまいました。それでも私は、大切な思い出は写真にして残すことが一番確実だと思っています。撮影したその瞬間は、もう二度と戻ってきません。ですから、切り取った貴重な一瞬を、画面の中に閉じ込めたままにせず、ぜひ写真という〝絵〟にして飾ってもらいたいのです。
そんな風に飾りたくなる写真を提供することが、私たち写真専門店に課せられた、今後の重要な使命なのかもしれません。私は、カメラが完全マニュアルで撮影者の経験値頼りだった時代から30年、プロカメラマンとして動いてきました。特別なメモリアル写真の撮影に限らず、イベント会場に出向いた撮影など、どんな状況でも対応できます。この強みを活かし、最近はスポーツ大会への出張撮影も進めています。いずれは、飾りたくなる写真の撮り方を伝える教室も始められたらと思っています。
三洋堂は、地域のつながりや先代から続くご縁のおかげで、80年も続いてきました。その恩返しのつもりで、これからも、写真を通じて皆様のお役に立てることを考えていきます。
■ SHOP DATA
株式会社三洋堂(かぶしきがいしゃさんようどう)
広島県福山市野上町3-5-7
TEL:084-922-1148