【異業種リレーの「わ」No.705 】「1.5万円の小遣いを元手に急成長したケーブル屋」

INTERVIEWEE No.705
株式会社 音光堂(かぶしきがいしゃおんこうどう)
代表取締役 吉田 祐也 さん

自作ケーブルからスタート

 音光堂は電気ケーブルの製造販売会社で、2013年に私が開業しました。プラグやUSBなどの端子をコードのような電線にハンダ付けした、多種多様なケーブルを通販サイトのアマゾンに出品しています。実店舗はありません。100m規模の特注レベルの商品もクリックするだけで買えるので、納品書も見積書も不要の手軽さが受け、学校、イベント会社、大手メディアなど全国の音響にまつわる様々な団体がお得意様です。
 スタッフは年々増え、現在20人。事務員を除く全員がクオリティの高いハンダ付けができるよう訓練しています。拠点は自宅の前に建てたコンテナハウスです。最初は私を含む3人で1棟から始めましたが、商品評価が上がるに連れて製造が追いつかなくなり、増員を重ねて5棟に増えました。
 そもそもは8年前、月1万5千円の小遣いを元手に、自作ケーブルをヤフーオークションに出品したのが始まりでした。当時、鉄工所に勤めながらバンド活動をしていたので、経費を抑えるため、ライブで使うケーブルを自作し、それを全国のバンドマンに向けて売ったのです。残念ながら音楽では鳴かず飛ばずでしたがケーブルだけは順調に売れていたので、これを本業にしました。
 その頃の我が家は3人目が生まれたばかり。経済的危機感もあり、挑戦するしかありませんでした。とはいえ、妻を説得できる売上になるまでは約1年掛かりました。毎日毎日ハンダゴテを握るキツさは誰よりもわかっているので、当社は残業ゼロ、完全週休2日制にしています。また、作業中の煙で自分の肺を痛めた経験から、吸煙機と空気清浄機はハイクラスのものを置いています。

ラッキーに恵まれ急成長

 2016年に株式化し、2年後にはアマゾンのケーブルカテゴリで売上トップを記録して年商1億円を達成。会計士さんも驚くほど異様な伸び方でした。完全にネットショップだからこその勢いです。あるときオーダーが入り始めたら、瞬く間に検索の上位に位置付けられ、そこからは昼夜を問わず受注が引っ切り無し。ヤフオク時代から匿名評価を意識し、丁寧で迅速な対応を心掛けていたのもプラスに働きました。
 私自身、ハンダ付けが得意だったことと、自作ケーブルを自分で使うことで、早い段階でクオリティを確立できていたのもラッキーでしたね。一人でしていた頃は、こんなに簡単な作業で儲かるのに、なぜ誰もしないのか不思議でしたが、人を雇って初めて、誰もが簡単にできる作業ではないことに気づき、競合がほぼいないことにも納得できました。ハンダ付けはコツさえ掴めば体力に自信がなくてもできます。今思えば、性別や年齢を問わず雇える軽作業という点も、急成長の要因だったのかなと思います。

シンプルな作業を丁寧に

 ネットショップのデメリットもあります。それは社会的信用性が低く、実店舗に比べて、融資を十分に受けにくいことです。開業時はまだしも、業績を伸ばした今でも、それは変わりません。これが、日本でIT市場が拡がらない理由の一つなのかもしれません。また、起業した者に優しく接してくれる人はほとんどいないことも知りました。最初から応援してくれたのはコンテナ会社の担当者くらいです。すごく有り難かったので、社屋は全部コンテナにしました。来月にはついに、全員を収容できる巨大なコンテナハウスが500m北に完成します。
 今年はイベント向きのケーブルこそ動きが鈍りましたが、オンライン会議の関係か、マイクケーブルの需要が激増しました。何が流行しても、我々の仕事はハンダを溶かしてパーツをつなぐだけ。このシンプルな作業を丁寧に繰り返すだけです。将来的には、もっと資金力をつけて雇用を増やし、社会貢献したいと思っています。ただ、どんなに稼げたとしても、自作したケーブルが初めて1本千円で売れたときの、あの幸せな気持ちだけは、ずっと忘れずにいたいです。

■ PROFILE
今回は、「ネイルサロン coast」代表、山口 萌香さんのご紹介により、「株式会社 音光堂」代表取締役、吉田 祐也さんに登場願いました。

■ SHOP DATA
株式会社 音光堂(かぶしきがいしゃおんこうどう)
広島県福山市水呑町4112-2
TEL:084-983-0251

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