INTERVIEWEE
森近石材有限会社(もりちかせきざいゆうげんがいしゃ)
展示場担当 江林 法子 さん(37)
3代目の長女に生まれて
「生まれた時から石屋の娘です」。江林さんは、明治22年創業の森近石材3代目・洋治さんの長女。「小学生からそろばんを習い始めたのですが、事務所で伝票をめくる母親の真似をしていたのがきっかけらしいんです」。大学卒業後は「いずれは母の手伝いをしようと漠然と思いながら」、地元の金融機関に就職した。30歳を前に夫の転勤で姫路へ行き、4年前に戻ってからは、3人の兄と夫と一緒に森近石材に関わっている。「我が子も男の子3人に一番下が女の子。母も最初は金融機関に勤めていました。いろいろ似ているなと縁を感じています」。
採石場や生コン工場も有し、注文から据付まで手がける同社において、江林さんの職場は平成元年にできた展示場。「午前中、店番をしています」。午後はそろばんを教えながら、近所の子どもたちに囲まれている。
人が最後に残すもの
展示場には、最高級石材の庵治石から外国産まで、形も日本人に馴染みのあるのタイプから洋墓まで約100基が並び、石の種類やデザインの違いを見比べることができる。オリジナルの墓石を依頼することも可能だ。「最近印象に残っているのは、一抱えもある黒御影石の球体のお墓です。お客様と家造りのようにイメージを膨らませていきました」という。
「ところで〝ハッピー60〟をご存知ですか?」と問いかけた江林さん。還暦になったら元気なうちにお墓のことを考えようと全優石(全国優良石材店の会)が呼びかけているキャッチフレーズとのことで「どんな墓を建てるか、自分で選ぶ時代ですから」。言われてみれば人は古来より、長い寿命を約束された石の墓にこだわり続けてきた。生きた証の表現と考えるのも、ごく自然なことに感じられる。
物事の始まりを示すもの
同社が取り扱う石材は、墓石だけにとどまらない。記念碑、句碑、町民顕彰碑、橋名プレート、神社の手水舎の水盤…お祝いの場面や節目にも依頼が入る。「石屋は、人や物事の始まりにも終わりにも関わっていると改めて感じます」。先代、先先代の写真が見守る展示場の事務所の一角で、江林さんは130年の業績を3代目の父親と一緒に振り返りながら微笑んだ。
情報紙『きづな』を春秋の彼岸に発行し、墓石を売って据えたら終わりではないアフターケアも心がける森近石材。江林さんは「今があるのも、備後を中心とする地域の皆様にかわいがっていただいたおかげです。これからも〝ちょっと顔を見に来た〟そう言って寄っていただける絆を大切にして、入りやすいお店にしたいですね」。入口付近には、かわいらしいフクロウを始め、庭先を飾る石の置物が出迎える。「ずっと森近に。お客様がそう言ってくださるよう、私も代々の感謝を忘れずお迎えしたいと思います」。
INTERVIEWEE DATA
森近石材有限会社(もりちかせきざいゆうげんがいしゃ)
広島県福山市沼隈町草深2564-2
TEL:084-987-2133