いつもは、彼女のおいしそうな顔を見られる とっておきの夜ごはんの場所。
別の日は、大切なお客様に確実に 喜んでもらえる接待の場所。
そして、今日は会社のチームで。
そう、今日は女の子の寿退社の送別会で 僕は幹事役。
ここ、中華料理 蓮華に4人で来ているのだ。
いつもは、イタリアン大好き!って雰囲気の20代後半の女子達ふたりは、
常に食べ歩いて、勝手に写真を撮って、ブログやツイッター、最近では
Facebookにまで、獲物を捕まえた狩人のごとく誇らしげに料理写真をアップしている。
そう、あなどれない20代のグルメなのだ。
彼女たちのテーマは「安くておしゃれでおいしいお店」
安さの基準が微妙だが、
5分前にここ、蓮華の前で待ち合わせしたあと、
颯爽と店内に座り、白の辛口のワインの値段をきいて
「じゃあ、それで♪」なんて、躊躇なく頼んでるとこからして
決して、チープではない。
サンマと里芋のテリーヌが、本日はじめの一品だ。
ああ、おいしい。
しかも、里芋とサンマなんてコラボははじめてだ。
「わぁっ~。おいしい、なにこれ!」
ふぅ。
安堵した。わかってはいても初めての人に紹介するときは緊張する。
まるで、仲人だ。
次の皿が来たときも、食べる前にキャッキャと喜んでいる。
「すご~い!芸術ですね」
どうまん蟹爪の冷製 枝豆のソースがけだ。
「ここ、中華なんですか?生まれて初めて食べる料理が続いてるんですけど♪」
今日は、結婚する女の子の馴れ初め話や、もうひとりの子の恋バナ(照れる)で、
話が盛り上がるかなと予想していたが、まさかの料理への執着心。
わぁ~ パシャ、
キャ~ パシャ。でも、その場でつぶやいたり、口コミを書いたりする余裕は
どうやらないらしい。
2品目でこのテンションだ。
3品目がきた。
合鴨のロースト まい茸 フォアグラの紹興酒風味。
オーナーが、料理名を言ったとたん、復唱する彼女たち。
「え~!合鴨? フォアグラ?」
おいおい、美味しい まい茸が抜けてるぞ。
噛み応えのある鴨のローストは、香ばしく フォアグラの濃厚なソースが食欲をそそる。
「なんで、なにもかも油っぽくないの?」
「しかも、なんか味が未知なのに裏切られず、予想以上にめっちゃ美味しい!」
なんだかわからないコメントに苦笑する。
無化調を、言うべきかちょっと迷う僕。 今夜は、まぁいいや。
ねだられてまた来るだろう二回目の来店のときに、カードは出そう。
いい感じで甘酢系がきた。
マグロの甘酢ソース。
きれいだ。彩り野菜と広東甘酢ソースが絡まる贅沢な料理だ。
次の料理は、僕の彼女がお気に入りの蒸し物。そう、二人で来ると
僕の分まで平らげる例の料理だ。
鯛ときのこの蒸し物。
今日は、一人で一皿。至福のひととき。シェアされない安心感。
お魚のメインがきた。
子持ち鮎の腐乳ソース。
腐乳ソース? 初めてだ。
聞くと、腐乳とは、豆腐に麹をつけて塩水の中で発酵させた臭旨調味料で、
沖縄の豆腐ようの原型だと言われているらしい。
広東料理によく用いられるそうだ。
まったりとしたコクが、絶品だ。淡水魚の鮎とこんなにも合う。
豆腐ようみたいな、クセがなく芳香なソースになっている。
しかも鮎の子に絡ませてもおいしい。
最後のお肉料理の前に、すでにうっとりとしている僕たちのチームの彼女たち。
僕だけが知っている最後を飾る料理が、そろそろくるはずだ。
「あ~、もう食べれるかなぁ。美味しさで満腹~」なんて
とろんとした目になってきている女子。
(いいぞ、代わりに僕が食べてあげよう!!)
仔羊の中国味噌ソース。
僕は、こっそりマスターにきいていたのだ。お肉のメインを。
そして、骨をもって豪快にむしゃぶりついて 第一声で、伝えようと・・。
やっぱり、ラムの・・
「おいしい~。なにこのお肉の旨み。焦げ感とレアのような柔らかさ・・。」
う~。
ここは、感想を声に出して言いたかった。
って、さっきおなか一杯だって言ってたろ。
最後には、手作りのぶどうのシャーベット。
ごちそうさまでした。
僕が連れてきた店なのに、彼女たちはあたかも馴染みのように
オーナーに愛想をふりまく。
「今度は、カップルで来まぁす」
・・・。
いいんだ。
僕はこうして、彼女らを真のグルメへの道に進ませるのだ。
マスター、また来ます。
いつも ありがとう。