【株式会社 天寶一/村上 康久】ー 逸酒相伝、天寶一だけが醸せる味ー 地元最優先、次は世界の食卓に

INTERVIEWEE
株式会社 天寶一(かぶしきがいしゃてんぽういち)
五代目代表取締役社長 村上 康久 さん(53)

年に一度の《これが酒じゃ》販売

 1910年に創業した天寶一は現在、福山で唯一の日本酒の造り酒屋。最大のヒット商品のひとつで、発売から20年の生原酒《これが酒じゃ》の、年に一度だけの予約販売会が来月18日・19日に迫ってきた。通常の日本酒は、搾って2〜3日で瓶詰めすることが多いが、これは即日瓶詰めした搾りたて。考案した五代目の村上康久さんは「フレッシュさとジューシーさが格別。口にした瞬間、うわっと広がるようなボリューム感と躍動感がある酒」と支持される特徴を表現した。
 節目でもある今年は「今の若い感性にも響かせたい。年末年始の特別な食事で多くの人に味わってほしい」と考え、アルコール感を極力潰した、やわらかな口当たりとして、進化を遂げた。リニューアルしたラベルに添えた〈秘伝霧隠〉〈逸酒相伝〉の文字に、天寶一だけが表現できる味だという自信も感じさせる。これぞ、酒造名にある、天地唯一の宝かもしれない。

日本酒嫌いが日本酒に目覚めた

 造り酒屋の長男に生まれた村上さんは「後を継ぐために、モノを売る力をつけよう」と考え、国士館大学を卒業後に建築関係の営業職に就いた。自分が造ることを考えなかったのは「日本酒が大嫌いだったから」だそう。
 転機になったのは25年前、福山に戻った際、研修先の酒類総合研究所で山形の名酒《十四代》と、これを生み出した年下のオーナー杜氏に出会ったこと。「旨かったんです。この酒が。イメージがガラッと変わると同時に、彼への強烈なジェラシーも感じ、自分も本気でやればできるのではないか、と思いました」。以来、杜氏と二人三脚で醸し、今も酒質設計士として杜氏や蔵人とともに造る道を歩んでいる。

地元福山と世界、二本柱を視野

 長年、全国を視野に展開してきた村上さんだが、近年は地元限定酒も考案。特に発売中の《white bat》は、幸福の白いコウモリからインスピレーションを得た、やや甘めのにごり酒。「マッコリのような感じで、焼肉にもあわせてみて欲しい」という。来春にはバラ酵母で仕込んだ日本酒も誕生予定だ。「こんな時期だからこそ遠くに行かず、家や市内飲食店で楽しめる酒を考えたい。地元に対してできる製造元としての貢献です」。
 今後について「日本酒を和食だけでなく、ワインのように様々な国の料理に合う間口の広い酒にしたい」と展望する。リミットは、自身の年齢を考えると最長で20年弱。「フランスやイタリアンの三ツ星レストランに置かれる日本酒を造ってみたい。コロナが落ち着いたら、好きなナチュラルワインの醸造主に会いに豪州へ行きたい」とも。
 独自の観点を持ち続け、息切れしない秘訣は「仕事を考えない日を作ること」だそうだ。山あいを一人でドライブしたり夜空を見上げたりして、頭と体のリセットも心がけている。

INTERVIEWEE DATA
株式会社 天寶一(かぶしきがいしゃてんぽういち)
広島県福山市神辺町川北660
TEL:084-962-0033

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