α-グルコシダーゼ阻害薬(以下α-GI)は、1990年代前半に初めて食後血糖を下げる経口血糖降下薬として日本で発売され、その後、食後高血糖や血糖変動が動脈硬化性疾患のリスク因子になることが疫学で示されると、一躍注目を浴びるようになりました。境界型、いわゆる糖尿病予備軍の患者さんを対象としたSTOP NIDDM試験では、アカルボース(商品名グルコバイ)が心血管イベントを抑制することが証明され、一気に市場も大きな広がりを見せたわけです。
ところが、2009年にインクレチン関連薬であるDPP-4阻害薬が登場し、α-GIは毎食前に内服しなければならないのに対し、DPP-4阻害薬は1日1回の内服で食後血糖を下げることができたため、市場はDPP-4阻害薬に傾きます。
しかし、その後、インクレチンの研究が進むにつれ、α-GIがGLP-1の分泌を促進するため、DPP-4阻害薬との併用で相乗効果があることがわかりました。また、食後血糖を抑制することでβ細胞への負担を軽減する作用も有することから、ボグリボース(商品名ベイスン)は糖尿病の発症予防が証明され、境界型の適応も取得しています。またミチグリニドとの配合薬(商品名グルベス)は、食後血糖を下げる力に優れ汎用されています。最後に登場したミグリトール(商品名セイブル)は、消化管から吸収されて脂肪細胞表面に結合、脂肪細胞への糖流入を防ぐことで脂肪を燃焼させ体重減少効果があることもわかりました。
α-GIは、毎食前に内服するという煩雑さ、便秘や下痢などの消化器症状が出ることなどの難点はあるものの、今もなお、糖尿病患者さんの薬物治療において、なくてはならない重要な治療手段であることに変わりはありません。