ビグアナイド薬は1950年代に登場した、SU薬と並んで最も古くからある経口血糖降下薬でありますが、その血糖降下や体重減少のメカニズムは諸説あり、現在もなお多くの医学的研究テーマになっている薬です。すなわち、未だにその薬効のメカニズムの全貌は明らかとなっていない、まさに神秘の薬と言ってもいいでしょう。
基本的作用は、肝臓におけるグルカゴン作用を阻害することで、糖新生を抑制して血糖を下げますので、この作用はインスリン非依存性ですから、低血糖を生じないことが特徴です。血中半減期が5時間程度の薬ですので、添付文書上は1日2~3回内服となっていますが、最近の研究では、1日1回でも2回投与でも血糖プロフィールに差がないことがわかっています。つまり、血中のメトホルミン濃度には依存しない血糖降下作用があるわけで、それは、腸内細菌を変化させてfarnesoid X 受容体(FXR)を刺激することでインスリン抵抗性を改善させる作用、あるいは、大腸からの糖の排泄を促進させることで血糖を下げる作用など、諸説が続々と出てきており、まだ結論が出ていません。
その他にも、メトホルミンには、大腸のmTORC1を抑制することで、大腸がんの再発を抑制するという効果、α細胞からグルカゴンの分泌を促進させることで、脂肪細胞の基礎代謝を促進させて体重を減少させる作用などもわかっており、まさに嬉しい作用が目白押しと言えます。メトホルミンは消化管からのGLP─1の分泌も刺激しますので、DPP─4阻害薬との相性が良く、併用することで血糖が相乗的に低下するため、多くのDPP─4阻害薬との配合錠も非常に汎用されています。
乳酸アシドーシスのリスク回避のため腎機能低下症例(eGFR30未満)の患者さんに対し、メトホルミン投与を回避することだけは注意する必要がありますが、これらの多彩な作用は、糖尿病患者さんの予後改善に有用であり、今後も多くの糖尿病患者さんに投与されるべき糖尿病治療薬の主役であると考えています。